「やっと介助犬訓練士になれたのに! まだ3ヶ月ですよ、3ヶ月!」
 3本の指で3ヶ月を表現しながら力説する結実に、女神はふわっと微笑む。

『いぬ を たすけて くれて ありがとう』
 その微笑みは絶世の美女。
 少し透けた身体と、ウェーブがかかった綺麗な金髪に宝石のような青眼。
 そして後光が射す姿は「女神なのだろうな」と思わざるを得ない。

 いや、相手が美人でも、私は不当を訴えますよ。
 やっとリッキーと仲良くなれたのに。
 新聞をテーブルから持ってこれるくらい成長したのに。
 まだ冷蔵庫はうまく開けられないけれど。
 
『おねがい わたし の せかい も すくって』
「え?」
『いぬたち を たすけて』
「犬たち? たすけて? それは、どういう……」
 
 結実は眩しい光に思わず目を閉じる。
 次の瞬間、結実は全力で拒否するべきだったと後悔することになった――。

    ◇

「ルーク、もうこれ以上は」
 瘴気漂う森の中、チャーリーは隊長ルークに息苦しさを訴えた。
 
「やはり瘴気の森が広がっているな」
 手元の瘴気測定器はMAXの赤。
 隊長である辺境伯ルークは、これ以上進むのは無理だと断念した。

「よし、急いで戻るぞ」
 ルークの合図で調査隊は全員急いで引き返す。
 
「……おかしいな」
 来た道を引き返せば瘴気は薄くなっていくはず。
 だが、なぜか瘴気測定器は赤色のままだった。