「キャン!(伏せ!)」
 地面に顔をつける犬たち。
 その場の全員が異常な状態に息を飲む。

「……キャルに従っているのか……?」
「そうみたいだね」
 ルークとチャーリーはキャルを見つめる。
 レイド国王女のクリスティーナはギリッと奥歯を鳴らした。

「ルーク。俺たち犬は斬れないけれど、人なら正当防衛……かな」
 相手は剣を抜いているしと微笑みながら剣を手にするチャーリー。
 待って、優等生眼鏡のくせに剣を使えるの?
 セコくない?

「おまえら如き、片手で十分だ」
 ルークはキャルを抱っこしたまま、剣を鞘から抜く。
 
「キャウ?」
 何そのヒーロー発言!

「何よ、そんな犬!」
 あ、完璧な悪役発言。
 キャルはペロッと舌を出しながら、真っ赤なドレスの女性を眺めた。

 ルークを好きなんだよね?
 でも剣を向けちゃうの?
 よくわからないなぁ。
 まぁ、イケメンなのは否定しないけどね。

 私だったら、好きな人には優しくしたいな。
 キャルは短い足をルークの顔に精いっぱい伸ばした。
 全く届く気配はないけれど。

 怪我はしてほしくない。
 剣で斬られたら痛いでしょ?
 よくないよ。

「……キャル? 怖いのか?」
 まんまるな目で見つめられたルークは思わずキャルの小さな口に触れるだけの口づけをする。

 犬だけれど、これはファーストキス!
 大丈夫だと微笑むルークにキャルの心臓はドクンと跳ねた。