「……ごめんなさい、キャル様」
 サリーは睡眠薬入りの水を飲んで寝てしまったキャルをシーツでふわっと包み込んだ。
 誰にも見つからないことを祈りながら裏口へ向かう。

「あれ? サリー、まだシーツあったの?」
「あ、えっと、キャル様の足に土が」
「あー、さっき散歩から戻って来たから! 洗い直しなんて大変だね〜」
「ううん、平気」
 サリーは急いで裏口の扉を開け、こっそり建物の裏へ。
 木陰に隠れていたレイド国の騎士がサリーの前にスッと姿を現した。

「……本当にお母さんを助けてくれるんですよね?」
「あぁ。早くしろ」
 サリーがシーツごとキャルを渡すと、騎士はシーツの中を確認し、ニヤッと笑う。

「ちゃんと薬は届けてやる」
「あ、ありがとうございます」
 急いで立ち去る騎士を見送ることなく、サリーもバレないようにあわてて屋敷の中に戻った。

「あっ、サリー! 大変なの! キャル様がいなくなっちゃったのよ!」
「今ね、ルーク様が部屋に行ったらいなかったって。一緒に探して!」
「う、うん」
 犬だから逃げちゃったってことにすればバレないよね?
 キャル様だって犬がたくさんいるレイド国の方が幸せだよね?
 お母さんの薬のためには仕方がない。
 今までだってルーク様の予定や興味を持った物や誰から手紙が来たかをレイド国に報告してお母さんの薬をもらっていたし、きっとバレない。
 でも、もしバレたら、もし……。

 バンッという大きな音に驚いたサリーの前をルークが通過する。

「ルーク! 待てって!」
「追いかけるぞ、チャーリー! 急げ!」
 レイド国にキャルが攫われたと走って行くルークを補佐のチャーリーは必死で追いかけた。
 馬に飛び乗り、あぜ道を駆け抜ける。
 
「なんで攫われたって、」
「森の瘴気がレイド国方面に向かって順番に晴れているからだ」
 キャルの力だとルークはチャーリーに説明した。