「早く私と結婚しましょう? そうすれば欲しいだけ犬をあげるわ」
「断る」
 さっさと帰れとルークは屋敷に向かって歩く。

「王女に対してなんと無礼な!」
「たかが辺境伯のくせに王女を無碍に扱うなんて」
「勝手に押しかけたのはそちらだろう」
 ふざけるなとルークは護衛を睨みつけた。

「……後悔するわよ、ルーク」
 クリスティーナはギリッと奥歯を鳴らしながら扇子をグッと握りしめる。

 ルークは振り返ることなく、屋敷の中に。

「……あの犬、始末しなさい」
「で、ですが、お犬様を大切にしないと天罰が、」
「騎士のくせに天罰を信じているの?」
 みっともないとクリスティーナは騎士に扇子を投げつけた。

「じゃあ、連れて来なさい。私が殺すから」
「……はい、クリスティーナ様」
 騎士は扇子を拾いながら目を伏せる。
 クリスティーナは馬車に乗りながら、絶対ルークと結婚してやると呟いた。
 
    ◇
  
 なんだか派手なお姫様だったけれど、ルークに片思いなのね。
 キャルは侍女のサリーにブラッシングされながら、先ほどの出来事を思い出した。

 美人だったけれど、性格は悪そうだったな。
 イケメンは大変だ。

 欲しいだけ犬をあげるよってどういうことなのだろう?
 ルークはいっぱい犬を飼いたいのかな?

「キャル様、赤いリボンと青いリボン、どちらがいいですか?」
 サリーに聞かれたキャルは青いリボンに鼻を近づけた。
 なんとなくさっきの派手な赤いドレスの人のようで、赤いリボンが嫌だったのだ。

「青ですね!」
 サリーが首輪にしては大きすぎる青いリボンをキュッと結びつける。

「可愛いです」
 鏡を見せられたキャルは、どこからどう見てもポメラニアンな自分の姿にガッカリした。
 可愛いけどね!

「お水です!」
 甲斐甲斐しく世話をしてくれるサリーも犬が好きなのかな?
 年は私と近そう。
 犬の姿じゃなかったら友達になれたかな?
 
 全く歩いていない散歩で疲れるわけがないけれど、なんだか眠たくなってしまった。
 ソファーは日差しがぽかぽかで、窓からは心地の良い風が入ってくる。

 うとうとし始めたキャルはソファーに顔を近づけた。
 すぐに閉じてしまう瞼に逆らえない。
 そのままキャルは深い眠りに落ちた。