「いい加減戻るぞ」


まだ少し拗ねた声の恵衣くんが立ち上がり、慌ててそれに続く。

その時、制服のポッケに入れていたチョコモナカの袋がひらりと落ちた。風に流されたそれは目の前の川に落ちてゆっくりと流れていく。


「あっ」

「バカッ……!」


動き出したのはほぼ同じタイミングだった。

月明かりで照らされた水面が真珠が飛び散るように跳ねた。私たちの手は、ほぼ同時に水の中でアイスの袋を掴む。ハッと顔を上げる。驚いた表情の恵衣くんと目が合った。

川のせせらぎが私たちの間を流れていく。何故か視線を逸らすことが出来ない。

水は冷たいはずなのに、僅かに触れる恵衣の手の小指は燃えるように熱かった。

お互いにはじけるように立ち上がると、川に浸かってしまったせいで袖からザバーッと水が滴る。恵衣くんも同じく濡れた姿で、というかむしろ私よりもびしょ濡れだ。

顔からサァッと血の気が引いていく。


「あ、あの……ごめん……」


恵衣くんは黙って目を閉じ天を仰ぐ。


「……もういい」


絶対に良くないやつだ。それ絶対に良くないやつだ。

無言で川岸に上がった恵衣くんを追いかける。


「あの、本当にごめん」

「だからいいつってんだろ」


顔を真っ赤にした恵衣くんは大股で歩いていく。

絶対怒ってる。あんなに顔を真っ赤にしてるんだもん、間違いなく怒り狂ってる。