「先生。俺たち、今日の舞の反省会をしていたんです」

「熱心なのはいいが、もう遅いから寮に戻りなさい」

「はい。分かりました」


今すぐ戻るんだぞと念を押した先生が足早に戻っていって、二人はぷっと吹き出した。

戻ろっか、そうだな。

そんな短いやり取りの後、二人はクスクスと笑って歩き出す。やがて二人の揃った足音は遠ざかっていった。


無意識に止めていた息を吐き出して、隣の恵衣くんの腕を激しく揺すった。


「き、聞いてた……!?」

「こんなに至近距離にいて聞こえてなかったら耳鼻科案件だぞ」


いつもなら呆れる軽口もスルーできるほど私は興奮しているらしい。

ずっと陰ながら応援来ていた二人が結ばれたんだから仕方がない。

滾る私とは正反対に恵衣くんは無口だった。なんなら少し落ち込んでいるようにすら見える。


「……真面目な人だと思ってたのに」


少しいじけるような口調でそう呟いた恵衣くん。

なるほど、恵衣くんは聖仁さんが恋愛していたことにちょっとショックを受けているようだ。

思えば誰それ構わず毒舌を振り撒く恵衣くんだけれど、聖仁さんに対してはいつもちゃんとした態度で接していた。真面目で優秀な聖仁さんの事を尊敬していたんだろう。

恵衣くん自身が恋愛に否定的だった分、聖仁さんに恋人ができてしまったことが信じられないと言ったところか。

相変わらず気難しい人だなぁとちょっと笑ってしまう。