「だから……ッ、月兎に選ばれたからとか関係なく、私はお前と過ごしたいって言ってんだよ!」

「それは、幼馴染として?」


聖仁さんの声が僅かに震える。

瑞祥さんの気持ちを知らない聖仁さんからしたら、きっとその質問をするには大きな覚悟がいったはずだ。

瑞祥さんが押し黙る。きっと瑞祥さんも怖いんだ。

ずっと幼馴染としてこの二人は隣に並んで歩いてきた。家族のように安心できて親友のように遠慮のないその関係は二人にとって何よりも大事なものだった。

相手に抱く気持ちが変わってしまってその関係が崩れてしまうのが、二人とも怖くてたまらないんだ。


「それ、答えたら……来年は一緒に過ごせなくなるか?」


瑞祥さんが震える声で精一杯にそう尋ねた。

ギシ、と橋が僅かに軋む。そして。



「ううん。来年は月兎なんて関係なく、二人で一緒に過ごそう。他のみんなみたいに、コソコソ川に手をつけに行こう」


"観月祭の日に配られるススキを手首に括り付けて好きな人と手を握り、庭園を流れる川に浮かぶ月影にその手を浸すとその二人は永遠に結ばれる"

観月祭の伝説を思い出す。

瑞祥さんが息を飲む音が聞こえた。


「幼馴染だとか、部長と副部長だとか、月兎に選ばれた二人だとか。そんな理由を並べなくても、堂々と君の隣に並んで手を握れる存在になりたい。────瑞祥のことが好きだ」


思わず叫びそうになって勢いよく両手で口元を覆った。この感情を共有したくて隣の恵衣くんに目で訴えかける。恵衣くんはバカかと冷めた声で一蹴した。

普段ならちょっとムカつくその態度も今はそれどころではない。