「せ……折角来年の観月祭の日もどっかでこっそり演舞しようぜって誘ってやろうと思ったのに!」
「それは嬉しいけど、来年も俺と過ごすつもり? 専科に上がったら門限もないし観月祭にも参加できるよ。誰かから一緒に過ごそうって誘われるんじゃない?」
「なんだよお前! さっきはあんなに怒ったくせに!」
不貞腐れた声の瑞祥さん。
恐らく"観月祭の後で会えないか"と誘ってきたクラスメイトの事を言っているんだろう。"ほいほい誘いに乗るな"とでも怒られたんだろうか。
「……ていうか、お前以外の男と過ごすつもりなんてないし」
きっと思わず出た言葉なのだろう。普段の瑞祥さんなら絶対に口にしないような素直な本音がぽろりと零れる。
「……え?」
「え?」
「瑞祥いま、何て……」
「は、え? は!?」
心の中で呟いたはずの言葉がしっかりと聖仁さんにも届いていたことに焦った瑞祥さん。激しく動揺しているのが伝わってくる。
いや、何でも、忘れろバカ!と理不尽な罵詈雑言が飛び交う中で、「瑞祥!」と真剣な声が名前を呼んだ。
「頼む、逃げないで」
聖仁さんの声色がいつになく真剣になる。
もう聞いている私はドキドキしすぎておかしくなりそうだった。