聞きなれた声が聞こえて、頭より先に体が動く。前を歩く恵衣くんの手首を思い切り掴んで自分の方へ引っぱった。
かなり驚いたようみたいだけれど、体幹がしっかりしているのかよろめくことはなく立ち止まる。
「いきなり何……ッ」
顔を顰めて振り返った恵衣くんに慌てて「しっ!」と人差し指を立てた。はァ?と怪訝な顔でとりあえず口を閉じた恵衣くん。
奥にしっかりと身を潜めて、橋の裏側から見上げた。
「待ってよ瑞祥」
もうひとつの足音が橋の上を通った。その声の主もよく知っている。
今橋の上にいるのは間違いなく聖仁さんと瑞祥さんだ。
「何で隠れんだよ」
一応潜められた声で恵衣くんがそう尋ねた。
「ご、ごめん。咄嗟に……」
思えば別に隠れる必要なんてなかったはずなんだけれど、咄嗟に体がそう動いてしまったのだ。
二人の足音は橋の真ん中で止まった。すぐに話し込み始めた二人に、外へ出るタイミングを完全に見失う。
バカ、と唇だけを動かして私を睨んだ恵衣くんに小さく手を合わせて謝る。ため息をついて腰を下ろした恵衣くんの隣に私も座った。
盗み聞きは良くないと分かっているけれど、自然と二人の会話が耳に入ってくる。
「本当に今日で終わりなんだな〜」
「中一の時からだから、約六年か」
「六年か! そんだけやってりゃ、終わると寂しく感じるもんなんだな」
月兎の舞の事を話しているんだろう。二人の声はどこまでも穏やかだった。穏やかな声と流れる雰囲気に女の勘がピンと働く。
この流れってもしかして───。