「お前ら中等部二年の学生だな! 明日から文殿清掃の罰則だ!」


「そんなぁ!」と嘆く男女の声が聞こえて、何が起きているのかを把握する。観月祭の伝説を聞きつけた学生が、寮を抜け出して庭園に来たんだろう。まったく、毎年毎年懲りん奴らめ。そう鼻を鳴らした先生は息を吐いて歩いて行った。

その数秒後にまた「こらー!」という声が別の場所から聞こえてくる。

私たちは顔を見合せたままぷっと吹き出した。


「毎年毎年凝りもせず……あいつらバカなのか?」

「私は結構好きだけどなぁ」


そう言った私に、恵衣くんは呆れた表情を浮かべた。

だって、危険を犯してでもずっと一緒にいたいと思えるほど大切な人だということだ。そこまで想える相手がいるのはとても素晴らしいことだと思う。

好きな人と綺麗なものを見て同じ時間を共有するというのも少し憧れる。


「……アホらしい。恋だの愛だの語る時間があるなら、少しは神職としての研鑽にあてろ」


恵衣くんらしい考え方にちょっとだけ笑った。


「もう戻るぞ」


恵衣くんがひとつ息を吐いて立ち上がった。

「そうだね」とその背中に続いて橋の下から出ようとしたその時、頭上の橋がギシギシと軋んで誰かが通る音がする。

また勇敢な学生たちがやってきたんだろうか、なんて頬を緩ませたその時。


「聖仁、早く来いよ〜」