観月祭のあとは本庁の屋上で月見酒をするのが毎年の流れだ。あれだけ沢山いた観客はもう二三人しか残っておらず、いつも通りの静かな庭が広がっている。
観月祭関係者ということで門限外での活動許可は降りているけれど、見回りの先生に見つかると説明が面倒なので反り橋の下に潜った。
川辺に並んで腰を下ろしていい感じに溶けたモナカにかじりつく。
もそもそと咀嚼しながら流れる沈黙の気まずさに耐えかねて少し身動ぎしたその時、「……お前さ」と珍しく恵衣くんの方から話しかけてきた。
驚きと早く返事しなきゃという焦りで慌てて飲み込んだモナカの皮が喉の奥に張り付く、げほげほ咳き込んでいると呆れた目を向けられた。
「ご、ごめん。私が何?」
落ち着くのを待っていてくれたらしく、そう謝るとひとつ息を吐いて口を開いた。
「別に、大したことじゃない。お前、来年アレやるんだろ」
「アレ……あ、月兎の舞? そうだね、一応内定してるみたい」
聞いてきたわりには大して興味がなさそうな声で「へぇ」と応える。そこで会話が終了し、また絶妙な沈黙が流れて気まずい時間が始まった。
その時、遠くの方で「こら待て!」と誰かが叫ぶ声がした。何事かと顔を見合わせる。