黙っている間に玉珠ちゃんによってストレートロングの黒髪はウェーブがかかった柔らかい髪に整えられていく。


「玉珠ちゃん器用だね。ヘアアレンジ得意なの?」

「私、たまに趣味でコスプレしてるんです。コスプレ用のウィッグをセットしてたら自然と覚えて……」


うふふ、と恥ずかしそうに頬を赤らめた玉珠ちゃんに目を点にする。また知らない玉珠ちゃんの一面を垣間見た。

ちなみに玉珠ちゃんは今日はお手伝い要員としてここに配置されているだけで、特に誰かへ告白するつもりなどではないらしい。この後は所属している漫画研究部で観月祭の伝説をテーマにした同人誌を描くんだとか。


「巫寿さんも折角なんで軽くお化粧しましょう! 色つきリップとベージュ系のシャドウつけて、軽くまつ毛上げるだけならバレませんから!」


美容サークルの女の子にそう声をかけられて、答えるまもなく唇に色が付く。ほんのりラメの入ったアイシャドウが乗ったまぶたに、くるんと上向きの睫毛になった自分の顔をまじまじと覗き込んだ。


「なんか、自分じゃないみたい……」

「あはは、私も初めてメイクした時はそう思いました! 興味が出たらいつでも美容サークルに来てください!」


ちゃっかり最後は勧誘されて「これオススメのクレンジングです」と試供品を渡された。


「巫寿さぁん! 瑞祥さんの雌兎の衣装、着付け手伝えますか?」

「あ、はーい! 今行きまーす」


まさに戦場と化した談話室をつま先立ちで横切った。