まさにそこは戦場だった。


「ねぇー! 髪巻けないー!」

「だれか編み込みできる人いない!?」

「色つきリップ持ってる人貸してッ!」

「香水かき集めてきたから好きなやつ使って!」


九月の三週目の火曜日、放課後知らせる鐘が鳴り響くと女子生徒たちは一斉に教室を飛び出した。目指す場所はもちろん女子寮談話室。

到着するなり人目もはばからず制服を脱ぎ捨てた皆は、普段なら速攻ルームウェアや楽な服に着替えるところを今日は一番オシャレな服に着替える。

そしてどこから持ってきたのか大きな姿見が壁一面に並べられ、己の髪と格闘を始める。


「瑞祥さん……! 折角なら髪巻きませんか?」

「いいじゃん! ふわふわにしよ、ふわふわ! なんてったって今日は観月祭だからね〜」


ホームルームが長引いていたのか遅れてやってきた瑞祥さんは到着するなり神楽部後輩の二人にされるがままになっている。

ちなみに私の髪もサイドが編み込まれて、毛先はこれでもかと言うくらい丁寧にストレートアイロンを通された。


「べ、別に私は普通でいいから!」


頬を赤くした瑞祥さんが二人の手から逃げようともがく。


「何言ってんの! 好きな人と踊るんでしょ!? そんな事できるの瑞祥さんだけなんだよ!?」


盛福ちゃんのあまりの気迫に気圧されたのか押し黙る瑞祥さん。