「恵衣坊、そんな言い方してたらモテねぇぞ〜」
背後から恵衣くんの肩に手を回したのはちょうど舞が終わって開放された瑞祥さんだった。
心底迷惑そうな顔をした恵衣くんだけれど、相手が先輩だからか無理やり腕を引き離すことはしなかった。
「……離れてください。恵衣坊ってなんですか。あと別に自分は人から好意を向けられたい願望はありませんので」
「またまたそんなこと言っちゃって」
おらおら、と恵衣くんの頭を撫で回す瑞祥さん。恵衣くんのこめかみの血管が今にもはち切れそうだ。
遅れてやってきた聖仁さんが瑞祥さんの脳天に手刀を落とす。「あいたっ」と声を上げた瑞祥さんはやっと恵衣くんを解放した。
「後輩をからかわないよ、瑞祥」
首にかけたタオルで汗を拭いながら聖仁さんはふふふと笑った。
「恵衣はこう言いたいんだよ。"何度も舞の稽古をして疲れただろうから、手伝わなくていいよ"って」
「ほぉ、なるほどな! 分かりにくい男だなお前!」
「巫寿ちゃんが何回も舞ってるのを知ってるくらい、ちゃんと見てたんでしょ? そりゃ心配にもなるよねぇ」
なるほど、そういう事か。見ててくれたんだ恵衣くん。少し恥ずかしいけど気を使ってくれたのは純粋に嬉しい。あとはもう少し分かりやすい言葉で言ってくれるとありがたいだけど。
とにかくお礼を言おうとして振り返ると、真っ赤な顔をした恵衣くが目を閉じ歯を食いしばって黙り込んでいる。
「お前が一番タチ悪いよ、聖仁」
そう言った天叡さんはんふふと楽しそうに笑った。