始めますよ、と先生が手を打ってようやく静かになった。
神前で一礼した恵衣くんの背中を見つめる。
「ただいまより、学業成就祈祷を執り行います。ご起立願います」
よく通る凛とした声が瞬く間に実習室の空気を変えた。自然と背筋が伸びる。
静かに立ち上がった私たちは小さく頭を下げ、その状態で止まる。
す、と恵衣くんが深く息を吸ったのが聞こえた。
「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に────……」
心地よい声に目を細めた。
恵衣くんの祝詞奏上を聞く度に思うけれど、あんな性格なのにその口が紡ぐ言祝ぎはこのクラスの中で誰よりも心地よい。
風も光も、草木も花も、全てが恵衣くんの味方をしているようなどこまでも優しく朗らかで甘美な声だ。
頭上でばさばさと大麻が揺れる音がした。
「ご着席ください」
その一声で皆はがたがたと着席する。修祓が終わればいよいよ祝詞奏上だ。
恵衣くんの声に聞き入りたい気持ちもあるけれど、今は憑霊観破の実習中だ。
静かに息を吐いて目を閉じた。これまでに習ったことを思い出しながら自分自身に集中する。