目を瞬かせながらその顔を見上げた。『巫寿? 聞こえてるか?』耳から離したスマホの向こうで禄輪さんが不思議そうに私を呼んでいる。
「どうした」
予想外の第一声に「へ?」と緊張感のない声が漏れる。
「何があった」
驚きの後ろに心配と動揺の色が見えた。そのせいで余計に困惑する。
「あ、え……? 親戚のおじさんと、電話してたの」
「は?」
「だから親戚のおじさんと……」
もう一度言い直すと暫くの沈黙の後、暗闇の中でも分かるほど恵衣くんの頬が色づいた。勢いよく私の手を離したあと「紛らわしいんだよッ!」と不機嫌な声で私を睨む。
「もっと人間が電話してそうな場所でしろ! こんな暗闇の中じゃなくて!」
ええー……そんなこと言われても。
なんだか理不尽な理由で怒られている気がする。
「俺はてっきりお前が────」
不自然なタイミングで言葉を止めた恵衣くんに首を傾げ、そして「あ」と漏らす。前にも似たようなことがあった。
あれは1学期、開門祭の少し前くらいだったか。その頃、私に関する根も葉もない噂が出回っていたせいで私はひどく落ち込んでいた。とうとう耐えきれなくなったある日、雨が降る中庭園の隅で蹲っていると、傘をさした恵衣くんが迎えに来てくれたのだ。