祖父母や従兄弟がいるにはいるらしいけれど親戚に関しては何も聞いてはいけない雰囲気だったので、幼いながらに「両親は実家と仲が悪い」のだと思っていた。
そうか。私たちが親戚と縁遠いのは両親の駆け落ちが原因だったのか。
興味本位で聞いた両親の馴れ初めだったけれど、私の想像を遥かに超える大恋愛だった。これまで恋愛をしたことはないけれどそれなりに興味はあるので、そんな両親がちょっと羨ましい。
いいなぁと零しそうになったその時、階段の下から誰かが登ってくるのがぼんやりと見えた。暗いので顔まではよく見えない。
そろそろ私も部屋に戻らないと。
「ありがとうございます、禄輪さん。聞けてよかったです」
『なんの。巫寿には両親の話をしてやるくらいしか、してやれることがないからな。それで、学校の方はどうだ?』
「あ、それが今年の月兎の舞の控えに選ばれて────」
階段を登ってくる足音が近付いてくる。登る、というより駆け上がってくる足音だった。
邪魔にならないように端に寄っておこう、そう思って腰を浮かせたその時。暗闇になれた目が駆け上がってくる人の顔を捉える。
捉える頃にはその人はもう目の前にいて、スマホを握る私の手首を勢いよく掴んだ。僅かに見開いた目で私を見下ろす。
「え────恵衣くん?」