「それ、多分アレじゃない?」


そう声を上げた天叡さんに私たちは振り向いた。ちょっと楽しそうに笑って続ける。


「選ばれてはいるけど断ったんだよ、巫寿ちゃんのお母さん」

「え……? どうして断るんですか?」


月兎の舞に選ばれることは神楽を専攻する学生たちにとっては名誉であり憧れだ。それをわざわざ断るだなんて。


「巫寿ちゃんも知ってるでしょ、観月祭の伝説。あの伝説が月兎の舞に由来してるってのは知ってる?」

「あ、はい」

「だから断ったんだよ」


観月祭の伝説のせいで断った?

顎に手を当て首を傾げ、すぐに答えにたどり着き「あっ」と声を上げた。

観月祭の伝説────好きな人と手を繋いで一緒に池に手を入れると永遠に結ばれる、といわれている。

もしそれを当時のお母さんも知っていたのだとして、観月祭に雌兎役として選ばれていたとして、その当時好きな人がいたのだとしたら。

なるほど、確かに乙女心としては本当に好きな人と手を繋ぎ池に手を入れたいと思うだろう。


つまりお母さんは好きな人がいるから、観月祭の雌兎役を断っていたということだ。


以前ほだかの社で禄輪さんにアルバムを見せてもらった時、お父さんとお母さんは初等部の頃からよく一緒に写真に写っていた。