綺麗にファイリングされた過去のパンフレットを指でなぞりながら、ふとあることに気付く。
月兎の舞はその年で一番舞が上手い男女一人ずつ選ばれる。だとすると、お母さんも月兎の舞に選ばれていたんじゃないだろうか。
えっと……お母さんが生きていたら今は47歳で、高等部3年に選ばれていたとすれば約29年前に選ばれている。となるとビデオテープにもまだ残っているはずだ。
急いで29年前のパンフレットを広げて、月兎の舞の舞手の名前を確認する。
うんと昔にお兄ちゃんから、お父さんは椎名家に婿入りしたと聞いているので、椎名はお母さんの姓。だからお母さんの名前は椎名泉寿で記されているはずだ。
「あれ……?」
パンフレットはちゃんとあったけれど、いくら探してもお母さんの名前は見当たらない。
もしかしたらこの年は選ばれなかったのかも、そう思ってお母さんが神修に在学している期間を全て遡ってみるけれど椎名泉寿の名前を見つけることはできなかった。
「選ばれてると思ったんだけどな……」
「何がだー?」
私の手元を覗き込んだ瑞祥さんにパンフレットを見せる。
「私のお母さんも神修を卒業してるんですけど、高等部1年の時には奉納祭の学年代表に選ばれてるんです。だから月兎にも選ばれてると思ったんですけど、名前がなくて」
「そうなのか? そりゃ変だな。基本的には学年代表に選ばれたら月兎の舞にも選ばれる仕組みになってるらしいぞ」
だったら余計におかしい。
富宇先生も絶賛するほどの実力を持っていたのにお母さんが選ばれていないなんて。