「────マッジで何なんだよあのクソハゲ親父ぃッ!」

「瑞祥、落ち着いて。ここ文殿だから」


ガルルと興奮する瑞祥さんの肩を押さえて椅子に座らせた聖仁さん。口は閉じたものの今一つ納得が出来ていない表情で、鼻息荒く聖仁さんを見上げる。


「お前は腹立たないのかよ!?」


小声でそう尋ねた瑞祥さんに、読んでいた本をパタンと閉じた聖仁さんはにっこり笑って答えた。


「馬鹿言わないでよ。心の中で三回呪った」


落ち着きなよ二人とも、とズレた眼鏡を押し上げながら二人を宥める天叡さん。フンッとそっぽを向く瑞祥さんと目の笑っていない笑みを浮かべる聖仁さんに苦笑いを浮かべた。


数日前から始まった月兎の舞の稽古。基本は神楽部顧問でもある富宇先生が稽古を見てくれているのだけれど、今日は本庁側の月兎の舞担当者が見学に来ていた。

去年の観月祭でも月兎の舞を担当していた役員で、後頭部が少し禿げている怖い顔をしたおじさんだ。リハーサルの時に聖仁さん達をものすごい勢いで叱っていた覚えがある。


その人が突然やって来て、今回もまた聖仁さん達に「それでも生徒代表か?」「あれだけ舞ってきて、また振り出しに戻っている」と散々な評価を投げつけた。

しまいには「これ以上稽古しても意味がないから、月兎の舞について調べてから練習しろ」と言い残して帰っていった。