予想は見事に的中した。

この子、完全に泰紀くんの好きな人は自分なんだと勘違いしてる。

こうなったら泰紀くんの言い方によって、かなり傷付けちゃうことになるだろうし慎重に返事をするべきなんだけれど────。


「ははは、何言ってんだ? お前そんな冗談言うタイプだったか?」


額を押えて項垂れた。

駄目だ、よりによって最悪な振り方をしてしまった。


案の定羞恥と怒りで顔を真っ赤にした女の子は肩をぶるぶる震わせた。そして鋭い眼光で泰紀くんを睨みつけると、大きく振りかざされた手が鞭のようにしなって泰紀くんの左頬に命中した。

バチンッと乾いた音がして思わず目を瞑った。

恐る恐る片目を開けると、顎が外れたように絶句し固まるクラスメイトたち。


「このッ……女ったらし!!」


目に大粒の涙を貯めた女の子はそう言い捨てて走り去って行った。

だだっ広い広間に怖いくらいの沈黙が訪れる。

ぶたれた左頬を押さえて完全に固まった泰紀くんの脇に手を入れて、嘉正くんは無理やり立ち上がらせた。


「泰紀の名誉のためにも、一旦退避しよう」


あそこまで大騒ぎしたんだからもう手遅れだと思うけど。

固まる泰紀くんを引きずって広間の外に出る。途端、案の定広間がお祭り騒ぎになるのが聞こえ、心の中で泰紀くんに小さく手を合わせた。