言祝ぎの子 陸 ー国立神役修詞高等学校ー


私たちがいくら慶賀くんを許したからといって、大人たちも同じように許してくれる訳ではなかった。

神職さまたちによって拘束された慶賀くんは本庁へ連行されることになった。激しく抵抗する私たちに、薫先生は「絶対に悪いようにはしない」と約束した。

薫先生がそう約束してくれたんだから、いつになるかは分からないけれどきっと慶賀くんは私達が待つ教室に帰ってくるはず。薫先生を信じ、歯を食いしばりながら見送った。


神々廻芽のことを考えた。

彼は慶賀くんを利用してまで、私の情報を知りたがった。おそらく私の情報を手に入れて、私を殺すため。

どうして私にそこまで執着するのか、殺したいと思うほど殺意を抱くのか、何一つ分からないまま悲しい事ばかりが続いている。

狙いは私なのに私の周りの人達ばかりが傷付いている。私のせいで、皆が傷ついている。

私が神修へ進む未来を選んでいなければ、こうはならなかったのかもしれない。一年の夏、お兄ちゃんの言葉に素直に従っていれば慶賀くんはずっとひとり悩まずに済んだのかもしれない。二年の春、自分の気持ちを優先しなければ、皆を危険な道へ巻き込まずに済んだのかもしれない。

何度もあった分岐点を思い返しては、心臓を掴まれるような苦しさに襲われる。あの日から数日だった今も、ずっと息苦しさを感じている。



握っていたフェンスに額を押し付けて、ずるずると座り込む。深く吐いた息はいつの間にか白く染るようになっていた。

寮の屋上から見おろした鞍馬山はもうすっかり色褪せて、吹き抜ける風の匂いは落ち葉の香りを運ぶ。空に登る満月は心做しか物寂しさを感じさせ、秋の終わりを実感した。