「妹さんとはぐれちゃったの? 見つかるといいね。それじゃ」
男は答えると歩き出す。
やっぱり見間違いか、そう思ってまた走り出そうと体の向きを変えたその時。男がパサリと何かを落とした。
ちらりと視線を向けた先に転がる、白猫のポシェットに呼吸が止まった。
「ま、待ってッ!」
そう声をかけたけれど今度は歩みを止めなかった。遠ざかって行く男に慌てて駆け寄る。男の袖を勢いよく掴んだ表紙に、子供のピンク色のスカートがさらりと落ちる。
見覚えがある裾のレースに、もう何が何だか分からない。賀子が母さんに頼んで、縫い付けてもらったレースと全く同じだった。
「その子……お兄さんの子供?」
「そうだよ。だから離してくれるかな」
「だ、だったら顔見せて!」
「悪いね、この子は今具合が悪くて先を急いでるんだよ」
男が俺の手を振り切って歩き出す。絶対に確認しなければいけないと、本能が俺に訴える。
子供の細い足を掴んだ。温もりが一切感じられないひんやりとした肌に体が硬直する。男の影から目を瞑る青白い顔が見えて、ひっくり返るように尻もちを着いた。恐怖のせいか驚きのせいか声が出ない。ただはくはくと金魚のように口を動かし、僅かに酸素を吸い込む。
「か……こ?」
男の腕に抱かれていたのは、紛れもない俺の妹。志々尾賀子だった。



