言祝ぎの子 陸 ー国立神役修詞高等学校ー


「賀子、怒ってないから出てこいって! 心配してるんだよ!」


もしかしたら「また怒られるかも」と思っているから出てこないのかもしれない。

そう考えてなるべく柔らかい口調で声をはりあげる。しかしその声に振り返るのは、往来を歩く妖だけだった。

焦りがピークに達する。心臓が耳の隣にあるのかと言うほどバクバクと音を立てた。握りしめる手のひらに嫌な汗が滲む。


「すみません! このくらいの身長で、桃色の服を着たおかっぱ頭の女の子見てませんか!?」

「俺の妹が迷子で、五歳の女の子見てませんかッ!」

「賀子って名前なんです、ほんの十五分前に別れたばっかで……!」


手当り次第声をかけた。誰も彼も横に首を振る。

クソ、と舌打ちをしてメイン通りから一本外れた裏路地に入った。メイン通りとは違って街頭もなく人一人通れるくらいの狭さしかない裏路地は、整備されているわけでもないのでかなり入り組んでいる。

賀子は暗い場所が苦手なので、自分から裏路地に入っていくとは思えないけれど、もし迷子になっているとしたらこの場所以外考えられない。


「賀子! 賀子ッ!」


走りながら名前を叫んだ。喉の奥が乾いて息が苦しい。全身から汗が吹き出す。

迷子ならまだいい。けれどここは鬼脈だ、幽世と現世の境目で善と悪が交わる。ここを出歩く妖が全て善良な妖とは限らない。

人の魂を食う妖もいる。授力を求めて血肉を食らう妖もいる。

見えない賀子が万が一そんな妖に出会っていたとしたら、間違いなく抵抗する間もなく────。


それ以上考えることはあまりにも恐ろしくて勢いよく被りを振った。