言祝ぎの子 陸 ー国立神役修詞高等学校ー


店先の赤い長椅子には誰の姿もなかった。


あいつ、違う椅子に座ってんのか?


そう思ったけれど周りに赤い長椅子がある店はない。一瞬嫌な感じがして、それを振り払うように深く息を吐く。


あいつ、もしかしてまだ拗ねてんのか? 珍しく今日は長いな。


長椅子に盆を置いて、賀子を置いてきた場所へ足を向ける。置いてきたと言っても店を三軒挟んだ先にある十字路だ。

恐らくそこでまだ蹲って抵抗しているのだろう。


いつもなら見つけ次第「いい加減にしろバカ子!」と怒鳴るところだけれど、今日は勘弁してやるか。

何故か胸騒ぎのする心臓を服の上から押さえつけ小走りで道を戻る。時刻は八つ時を過ぎた頃、妖たちの時刻で言えば真夜中だ。一日中賑やかな鬼脈でも、やはり出歩く者は少ない。

一際小さい影を探す。おかっぱ頭にピンクのワンピース、お気に入りの白猫のポシェット。

探す。時間が経つにつれざわめき程度だった胸騒ぎは騒音のように大きくなった。


「賀子? おい賀子!」


声をはりあげた。歩いていた妖たちがちらちらとこちらを振り返る。けれど賀子の姿だけが一向に見つからない。