「賀子は慶賀が思ってるよりも、慶賀のことが好きだってことだよ」
やっと終わったのか伸びをしながら泰紀が振り向く。意味わかんねぇよ、と零すと泰紀はヒヒヒと笑う。
「にーにみたいに強くなるために、にーにの真似をするんだと。そしたら言霊の力が宿って、神修も一緒に行けるかもしれないからって。そう言ってたぞ」
なんだよそれ、そう呟いたはずの言葉は声にならずに掠れて消える。
自分に言霊の力がないことは賀子自身が一番よくわかっているはずだ。
小さい頃は自分に言霊の力がないことを嘆いてよく両親を困らせて、俺の長期休暇が終わって神修へ戻る時も、「どうして自分は通えないのか」と泣きじゃくってはみんなで必死に宥めていた。
けれどいつの間にか賀子なりに諦めがついたのか駄々をこねるようなことはなくなった。むしろ幼稚園の友達と同じ地元の小学校へ通えることを楽しみにしているくらいだ。神修初等部は鞄が規定のリュックサックなので、両親に買ってもらったピンクのランドセルは何度も何度も見せびらかされた。
だからもう言霊の力にも神修にも未練はないのだとばかり思っていた。



