最後は嘉正が選んだ饅頭屋だ。饅頭屋に向かって歩いていると、「そういえば」と嘉正が振り返る。
「賀子ちゃん小麦アレルギーって言ってたよね? 饅頭屋に連れてって平気?」
「いや、近くにあるだけでも結構出るから、店の前で待たせとく」
そう答えて、わざと歩みを遅くして抵抗する賀子の手を強く引いた。
目を合わせないようにぐりんと顔を背けた賀子に頬が引き攣る。ここで怒鳴るとまたビィビィ泣かれてしまうので、兄の俺がグッとこらえる。
「おい賀子。今から行く店の前に赤い椅子あるから、そこに座ってちょっと待ってろ」
「またかこだけおるすばん?」
少し泣きそうな目で見上げられ、「また」って何だよと苛立ちが募る。
そもそも散々駄々をこねて勝手についてきたのは賀子だろうが。
「かこもにーにといっしょに、お話ききたい……!」
「遊びじゃないって言ってんだろ」
「かこもオベンキョーする……!」
「いい加減にしろよッ!」
賀子の手を振りほどいて声を荒らげた。沸騰直前の湯のように呪の力がぐらりと自分の中で昂り、慌てて深く息を吐いた。
「とにかくお前は連れて行けないから、椅子のとこで待ってろ! いいな!?」
「なんでぇ……!」
その場に座り込んだ賀子は膝を抱えて丸まる。



