「いい加減にしろよ! 鬼脈で勝手なことはするなって何度言えばわかるんだよ!」

「だって」

「だってじゃねぇよ! 現に妖にぶつかってんじゃねぇか! "見えない"くせにウロチョロすんな!」


瞬く間に目に涙を浮かべた賀子は「にーにのバカ!」と叫ぶと嘉正の腰に抱きつく。もう一度怒鳴ってやろうとしたけれど「まぁまぁ」と二人に宥められて渋々口を閉じた。


「でも賀子ちゃん、危ないから鬼脈では誰かと手を繋いでいてね」

「わかった……」


ぐずる賀子を宥めながらそう言った嘉正。

嘉正の言うことなら聞くのかよ。

心の中で舌打ちをしながら、まだ少し不貞腐れる妹に息を吐く。


賀子に言霊の力はない。生まれた時からそうだった。

うちの家系は昔から言霊の力を保有する人間とそうでない人間が半々くらいで、他の家に比べると身内の神職がかなり少ない。

賀子は言霊の力を持っていない側の一人だ。ただ妖を見る力はほんの僅かにあるらしく、ある程度妖力の強い妖なら見ることができた。

さっきの妖はおそらく見えていなかったのだろう。


だから賀子を連れてくるのが嫌だったんだよ。


心の中でそう零す。


「にーに……?」


さすがに悪いと思ったのか顔色を伺ってくる賀子。額を押えて息を吐く。握った拳を賀子の頭に軽く落とすと「いてっ」とわざとらしく痛がった。


「今度急に走り出したりわがまま言ったら置いて行くからな」

「しない! 言わない!」

「よし」