うわぁん、と過熱する賀子の癇癪に奥歯を噛み締める。
こうなると母さんの言うことは決まってる。だから賀子もさっきから、泣くふりをしながらチラチラと母さんの顔色を伺っていた。
「慶賀、賀子も連れて行ってあげて」
「えぇ〜ッ!」
ほらやっぱり! だから嫌なんだよ!
案の定してやったり顔の賀子はさっきまでの涙はどこへやら、「用意してくる〜!」とスキップで廊下を駆けていった。
「なんでいつも俺ばっか! 俺は宿題のために鬼脈に行くんだよ! そもそも男友達と会うのに妹連れとか変だろ!」
「妹なんだから変も何もないでしょ」
「そもそも迎門の面はどーすんだよ! 俺は学校から配られたやつあるけど、あいつはねぇじゃん!」
「お金渡しておくから行く途中で買っていって。あまった分はお小遣いにしていいから」
そう言って財布を取りに戻った母さん。その背中を睨みつけてぐしゃぐしゃと頭をかいた。
この隙に出掛けてやろうかとも思ったけれど、そうなると帰ってきた時が怖い。結局出かける直前に賀子に見つかった俺は、その瞬間からあいつを連れて出かけなきゃならない運命なんだ。
どすんと上がり框に腰を下ろし、近くにあった誰かの雪駄を蹴飛ばした。



