「切られた時、すぐに気づいた。その時、慶賀がないてた。わけ聞いたら、"どうしてもこうしなきゃいけない理由がある"って言った。頼むから、誰にも言わないでって。だから黙ってた」


信乃くんが怒りで耳を真っ赤にして慶賀くんを睨んだ。


「お前、友達を傷付けなあかん理由ってなんやねんッ! そんで怪我させた上で瓏に"この事は黙ってて"って言うたんか!? どんだけ性根腐っとのじゃ!」


机を蹴飛ばして今にも飛び掛ろうとする信乃くんを、鬼市くんが後ろから羽交い締めにして抑え込む。

訳が分からずただ泣きたい気持ちでいっぱいになる。皆みたいにするすると言葉が出てこない。言いたいことがあるはずなのに胸につっかえて圧迫するだけだった。


「ねぇ慶賀、分かってて裏切ったの? お前が芽に情報を渡せば仲間が危険な目に遭うって」


薫先生がゆっくりと言葉を投げかける。


「何度も情報を渡したよね、その度に友達がどうなったか見てたでしょ? 自分だって無事ではすまなかったよね?」


必死に冷静を装っているような声に聞こえた。


「どうして、裏切った?」


聞きたくない。信じたくない。だって友達だと思っていたから。その訳を聞けば本当に慶賀くんを裏切り者だと認めなくちゃいけなくなる。

そんなのは嫌だ。