でも慶賀くんはあの時瓏くんとはぐれてしまったから、瓏くんとは一緒にいなかったはずだ。
「そもそもあの山に放った妖は、学生に危害を加えないよう呪いが施されていたんだよ。だから学生に危害を加えられるのはあの場にいた学生か神職しかいない。慶賀以外の他の皆はそれぞれペアを組んでいたからアリバイがある。でも慶賀は? 慶賀だけ、あの時何してたか誰も知らないんだよ」
両手を拘束され、両肩を押さえつけられた慶賀くんが床に膝をつく。項垂れるように俯いたままだ。
信乃くんが静かにそう問いかける。
「……おい瓏、お前なんか知ってんのか」
瓏くんを見た。きゅっと唇を結び視線を背ける。何かを隠す素振りにいち早く信乃くんが勘付いた。
「俺に隠し事とはええ度胸やな。俺を裏切るんか」
「俺は信乃のこと、裏切らない」
「ほんなら全部喋れ。黙っとってもこいつの罪が重くなるだけやぞ」
黙り続ける慶賀くんをじっと見つめ、瓏くんの瞳が激しく揺らぐ。
「────呪印を切ったのは、慶賀だ」
みんなの口から空気が漏れた。キン、と耳鳴りがしたような気がして目の前の景色がずっと遠いところで広がっているような感覚に陥る。
教室に溢れる空気が疑念から敵意に変わる。神職さまたちの目付きは、もう"慶賀くん"ではなく"内通者"をみていた。



