え、と呟いたのは自分なの他の誰かなのか。

神職さまたちが見つめる一点を振り返って見た。ポカンとした表情でもなく、怒った表情でもない。知られたくなかった秘密を暴かれた恐怖と戸惑いが滲んだ顔で、何かをこらえるように唇を噛み締めて俯いている。

否定も肯定もない。ただその表情が何よりの肯定だと私たちの誰もが感じ取った。


「えっと薫先生? 俺バカだから何の話してんのか分かんないんだけど」


へらっと笑った泰紀くんがゆっくりと席を移動する。


「僕もちょっと理解できません」

「慶賀が内通者? 俺らにも分かるように初めから説明してください」


眼鏡を押し上げた来光くんと冷静な声で尋ねる嘉正くん。三人は慶賀くんを庇うように前に並んで薫先生を睨んだ。

慌てて私も一歩踏み出したところで、二の腕を捕まれ阻まれる。振り向くと恵衣くんが、慶賀くんをじっと見つめながら私の腕を掴んでいる。


「動くな馬鹿。狙いはお前なんだぞ」

「え……」


恵衣くんが苦い顔をして私を自分の方へ引き寄せた。

慶賀くんを見た。深く俯いていて表情は分からない。指先が白くなるまで強く握りしめられた拳だけが見えた。

薫先生は眉を下げて皆に微笑みかける。


「言葉の通りだよ。これまで君たちの周りで起きた事件……(にのまえ)方賢(ほうけん)が起こした事件や応声虫(おうせいちゅう)の被害、三好(みよし)正信(まさのぶ)を唆して蠱毒(こどく)を行わせたこと。全部一人の黒幕がいて、その黒幕に加担していたのが慶賀だ」