チャイムが鳴って皆が教室に戻ってくる。最後尾の真ん中の席に座る泰紀くんが「あれ、恵衣と席変わったのか?」と不思議そうに話しかけてくる。
「本庁の視察があるから、恵衣くん張り切ってるみたい」
「ははっ、なるほどな!」
「今更焦ったところでどうしようもないのにねぇ」
恵衣くんの背中をちらりと見てからかい口調でそう言った来光くん。般若の顔で振り返ると思ったけれど聞こえていなかったようで反応はない。唇を尖らせて「つまんないの」と呟く。
この二人は喧嘩がしたいのかしたくないのかよく分からない。
暫くそんな感じで「何するんだろうね」なんて会話をしていたけれど、本鈴がなって二十分くらい過ぎた辺りから皆がざわざわし始める。
「先生たち遅いね」
「授業のこと忘れてんじゃね? 職員室でコーヒーでも飲んでんだろ」
「流石に実習のことは忘れないでしょ。準備に手間取ってるんだよ、三学年合同って言ってたし」
「俺、職員室見てこようか?」
「止めろ嘉正、まだ早い!」
先生を呼びにいく派といかない派で教室が分裂しかけたその時、廊下の奥からこちらに向かって走ってくる複数の足音が聞こえた。
来ちまった、と残念そうに肩を落とす"いかない派"の皆にふふと笑う。
足音はまっすぐこの教室をめざしている。
それにしても、足音の数が多いような。



