『────考える時間はたっぷり与えたね。それじゃあ答えを聞かせてもらおうか』


電話口から聞こえてくる男の優しげな声。その声の優しさとは裏腹に、突きつけられた選択肢はあまりにも残酷でその選択肢ですら選ぶ余地は無い。彼が求めている返事は一択だった。

夜空を見上げる。夏が過ぎ高くなった空に浮かぶ満月には霞雲がかかっていた。満月の輪郭が歪む。歪むのは、自分が泣いていたからだった。


『罪悪感を覚える必要はないよ、君だって守りたいものがあるのだからね。人は全てを選ぶことはできないんだ、何かを選ぶなら必ずもう一方を切り捨てなければならない』


男が穏やかな声で語りかける。男の言うことはいつも理にかなっていた。だからこそ、何が正しいのかが分からなくなる。


守りたいものがある。それを守れるのは自分だけで、自分が見放せばきっともう助からない。

これまで何度も裏切ってきた。そのせいで大事な仲間たちを危険に晒してきた。でも皆は力を合わせてそれを乗り越えた。だったら今回だってきっと大丈夫だ。

今回も上手く切り抜けてくれる。だから。



『さぁ教えて、君たちのことを』


目尻の涙を強く擦る。震える唇をゆっくりと開いた。