神修の夏休みが短いのは冬休みが長いから、冬休みが長いのは冬は神職にとって一大行事である年越の大祓と歳旦祭があるからだ。
大晦日から三箇日にかけては一年で一番神社への関心が高まる時期で、その頃はお祓いなんかの依頼も格段に増える。
平時から人手が足りていないと言われているこの界隈、平たく言えば忙しすぎて猫でも学生でもいいからとにかく手を借りたいという事だ。
神修に通う学生の多くは実家がどこかのお社か、両親がどこかのお社で奉職している。神修で神職になるべく日々研鑽している私達はもれなく戦力にカウントされているので、子供たちは問答無用で社の手伝いを余儀なくされるのだとか。
だから神修では、社の繁忙期が過ぎる一月の中旬くらいまでが冬休みに設定されている。休みは長いけれど休みがないのはそういう訳だ。
「休みをくれ休みを!」
「休みくれって言えるほど働いてないでしょ」
「子供にだって息抜きは必要なんだよッ!」
慶賀くんがそう行って勢いよく立ち上がったその時、背後に立つその人が手にしていたノートで慶賀くんの頭を遠慮なく叩いた。
痛くはないが驚いたらしく、「何だよ!?」と後頭部を抑えて振り返った。
「現国のノート、返却」
「返すならせめて手渡ししろよ!」
「うるさいだよお前」
切れ長の目を細めて睨むと、ふんと鼻を鳴らし自分の席に戻る。
相変わらずな態度に苦笑いを浮かべた。
京極恵衣、彼も私のクラスメイトだ。優秀だけれど頑なな性格で口が悪く、口癖は「うるさい」と「バカなのかお前」の二種類。そんな性格が祟って1年生の頃はクラスメイト達とよく衝突していた。