「お傍を離れて申し訳ありません。お申し付け通り、住人たちの避難は終わらせてまいりました」
眞奉のいつもと変わらない淡々とした物言いのおかげで混乱していた頭が少しずつ冷静になっていく。
「巫寿さま、ご指示を」
「あの妖狐の足止めをしたいの。戦わなくていいから!」
「ではその妖狐と距離を取ったあと、暫し短剣をお借りします」
「もちろん、ていうかこの短剣何!?」
「國舘剣です。それでは三で押し返します」
剣には詳しくないのだけれど、とにかく眞奉の私物なのだろう。
三、の合図で足をふんばり直して両腕に全力の力を込めた。苦しげに呻き声を上げた伊也は、押し負けるよりも先に飛び退くことを選んだ。土埃を上げて飛び上がり私たちから距離をとる。
すぐさま短剣から手を離し、眞奉の隣に並んだ。
体勢を立て直した伊也がこちらに向かって走ってくる。また短刀で斬りかかってくるつもりだ。すかさず眞奉が短剣を握り直し駆け出す。
憤怒に染った伊也の口元がにやりと弧を描いた。
「そう何度も同じ手使うかいなッ!」
担当を持つ反対の手を振り上げた青い炎が手のひらの上で揺らめいている。怪し火だ。伊也は斬りかかるふりをして最初から怪し火を撃つつもりだったんだ。
眞奉はかなり距離を詰めている。今から避けても間に合わない。だったら。
胸の前で鋭い柏手を響かせた。



