「夏休みが短ぇ!」


クラスメイトの慶賀(けいが)くんが頭を掻きむしりながら椅子の上に立って叫ぶ。三時間目と四時間目の間の中休みのことだった。

後ろの席の来光(らいこう)くんがメガネを押し上げながらそのおしりをばしんと叩いた。


「いつまでソレ言ってんの慶賀。もう学校始まって三日経ったんですけど」

「だってよぉ」


唇を尖らせた慶賀くんがへにゃへにゃと椅子に座りこむ。


「短いも何も、毎年同じ長さだろ」


今日の日直である嘉正(かしょう)くんが黒板を消しながら呆れたように息を吐く。「ああっまだ消すな!」と泰紀(たいき)くんがノートに齧り付きながら悲鳴をあげた。


「確かに短いよね。中学校までは一ヶ月以上あったから、神修に来てびっくりしちゃった」


私がそう答えると慶賀くん「だよな!?」と勢いよく振り返った。

神修の夏休みは非常に短い。短いというのは体感スピードがどうこうという話ではなく、本当に日数が短いのだ。

"普通の学校"が七月末から八月末までの約一ヶ月間あるのに対し、神修は七月下旬から八月上旬までの約二十日間程度しかない。なんなら去年は夏期補習があって、その半分くらいしかなかった。


「まぁ冬休みが長いから仕方ないよ」

「長いつっても遊びに行けるわけじゃねぇけどな」

「それだよそれ! 結局休みらしい休みが俺達にはねぇんだよ!」


そう嘆くのも無理はない。