走りながら、信乃くんがいつもと違って何かを考え込むように口を閉ざしているのが引っかかった。
思えば神楽殿へ戻ってきた時からどこか気もそぞろと言った感じだった。
「信乃くん? 大丈夫?」
たまらずそう声をかけると「え?」と顔を上げた信乃くん。堪忍、今なんか言うた?と本当に別のことに気を取られていたようで、申し訳なさそうに拝む。
「いや、その。大したことじゃないんだけど、いつもと様子が違ったから……」
「そりゃ変にもなるだろ。いきなり身内が敵になって現れたらな」
言葉の意味が理解できなくて固まる。
"いきなり身内が敵になって現れたらな。"────身内が敵!?
一体誰が、と言いかけて赤い瞳の妖狐を思い出す。
そうだ、野狐の伊也は元は信田妻族の妖狐。妖は仲間意識が非常に強いし、同じ一族の妖を身内と表現するのもうなずける。
鼻を鳴らした恵衣くんに、信乃くんはどこか少し力が抜けたように肩を落とすと苦笑いを浮かべた。
「恵衣ってホンマ事実と正論に忠実に生きとるよな」
「それの何が悪い」
「いんや、むしろ変に気遣われるよりその方がええわ」
前を向いた信乃くんはひと呼吸おいて口を開く。



