言祝ぎの子 陸 ー国立神役修詞高等学校ー



「お母ちゃんッ!」


本殿に入るなり母親の姿を見つけたらしい。男の子は私の腕の中から飛び降りると一目散に駆け出した。

青い顔をして当たりを見回していた女性がその子に気が付いて抱きとめる。どうやらお母さんらしい。


「ああ良かった……! あんたどこおったん!? あれほどお母ちゃんの手離すなって言うたやろ!」


声は怒ってはいるものの男の子を強く抱き締めた女性は私の姿に気付いて深々と頭を下げる。会えて良かった、と目を細め小さく頭を下げた。

当たりを見回した。入口からは里の人達が次々と避難してくる。手伝う神職さまの姿も見受けられたので恐らく大丈夫だろう。

人混みをかき分けて本殿を飛び出し社頭を駆ける。救護所となっている神楽殿を目指した。


道中で怪我をした里の人たちを何人か見かけた。できる限り声をかけて治癒の祝詞を奏上しながら進んでいると、突然強く肩を引かれる。

驚いて振り返ると、険しい顔をした鬼子ちゃんが私を見下ろしていた。


「来なさい」


私の手首を掴んだ鬼子ちゃんは怖い顔をしたままずんずんと大股で進んでいく。


「ちょっと鬼子ちゃん! 社頭には怪我した里の人達が……ッ!」


声を荒らげた次の瞬間、神楽殿の入口の戸をあけて私をその中へ投げ入れるように腕を振り払う。たたらを踏んだけれど何とか転ばずに踏ん張ることができた。