とにかくこの事を誰かに、伝えて次の手を。
私の髪を鷲掴みにする伊也の手の甲に爪を立てたその時。
「まったく、伊也どのには困ったものですな。自分勝手な行動は慎むようにと、芽さまからあれほど言われたでしょうに」
「誠に遺憾である」
第三者の声と共に強い風がふきぬけて、煙幕が薙ぎ払われる。少しずつ晴れてゆく煙の奥に二人分の人影を見た。
一人は老人だった。しわの目立つ八十くらいのお爺さんの顔立ちをしていて、髪は抜け落ち目元は落ち窪んでいる。ただ、どこにでもいるおじいさんの風貌をしたその人の異様に長く伸び膨らんだ後頭部が、人ならざるものだと物語っている。
もう一人は四十くらいの壮年男性だ。精悍な顔立ちをしており背も高く体格の良い。白衣の上にちゃんちゃんこのような羽織、袴の裾をしぼった履物を身につけた山伏のような姿。その手には錫杖と大きなヤツデの葉が握られている。
「ぬらりひょんに、烏天狗……」
両目を見開き息を飲む。実際にその姿を見るのは初めてだった。
妖生態学の授業で、科目担当の先生と何気なく交した雑談が蘇る。
『なぁなぁセンセー! 結局一番強い妖ってなんなの? やっぱ大百足か牛鬼?』
『それで言ったら空亡じゃね?』
『空亡はなし! あんなん規格外だろ』
わぁわぁと騒ぐクラスメイトたちに、先生は腕を組んで「そうだなぁ」と顎をさする。



