唾を飲むと、手が震えていることに気付いた。
『"これから起きること全部お前のせい"……つまり何らかの狙いはお前にあるってことだろ』
以前神々廻芽のことを話した際に、恵衣くんは神妙な顔をしてそう言った。それが間違いでなければ、彼女の狙いは私にあるということだ。
けれど最初に彼女が私へ声をかけた際、私がここにいることが予想外のような口ぶりだった。つまり当初の目的は別にあるということ。
怯むな。目を外らすな。
彼女の狙いが何にせよ、自分を守れるのもここを守れるのも今は私だけなんだ。
「伊也さま、ここら一帯の家屋には全て火をつけました。社の方へ向かってよろしいですか」
視界の悪い煙の向こうで第三者の声が聞こえた。
「ああもう喧しいな。いちいちうちに確認せんと分からん? さっさと行き!」
「承知しました」
煙の向こうで黒い影が動く。間違いない、家に火をつけた黒狐族だ。
会話の流れからして黒狐族は伊也という人に従っているらしい。
どういうこと?
だって彼女は野狐とはいえ元はと言えば信田妻族、黒狐族を従えるような立場にいるはずがないのに。



