ウラギリモノ、うらぎりもの────裏切り者。
その言葉の意味を理解すると同時に、体の中心がぶるりと震える。
「おそらく一人か二人内部にいる。神職か役員か……その辺はまだ分からないけれど」
「ここに来るまで気付けなかったということは上層部の人間か芽の筋書きにはそこまで深く関わっていない下っ端程度の輩だからだろう」
嬉々先生がそう続けて、部屋の中の空気が動く。
「お前達……気付いていたなら何故すぐに知らせないんだ!」
禄輪さんが声を荒げた。これまで沢山叱られてきたけれど、そんなふうに怒鳴る姿は初めてだ。
「確証がなかったんだって。下手に動いて取り逃がすよりかはマシでしょ」
「それはそうだが……!」
「知らせたところで俺たちを”かむくらの神職”に加えるつもりはないくせに」
冷静で、でも静かな怒りが籠っている声。
かむくらの神職、薫先生の口からその言葉が出た途端部屋の中の空気が一気に引き締まったのを感じた。
かむくらの神職────13年前の空亡線で混乱のさなか最前線で戦い続けた神職たち。両親や禄輪さんが所属していた義勇軍だ。
「かむくらの神職はもう機能していない。お前たちを加えるどうこうの話じゃない」
「嘘だね。普通に考えて、他所の宮司が社を留守にしてまで他の社の夏祭りを手伝うわけないでしょ」
禄輪さんが言葉を詰まらせる。