信田妻、よく知っている。そこは信乃くんの一族だ。野狐というのも聞いたことがある。確か妖狐の妖一族の中で悪事を働いて一族から追放された妖狐をそう呼ぶと授業で習った。
つまり伊也という妖狐の彼女は、悪事を働いて信田妻族から追放された妖狐ということだ。
そして彼女は。
彼女の藍色の袖が翻った次の瞬間、息を飲むよりも先に青い炎が目の前に迫ってきた。怪し火だ。彼女が放ったのだ。
その一瞬で避けれないことを悟る。
反射的に両腕で顔と頭を守りきつく目を瞑ったその時、炎が激しくはためく音がしてまぶたの向こうに赤い光を強く感じる。
顔中に焼けるような熱を感じながらうっすらと目を開けると、私の前にたちはだかる燃えるような赤毛を見つけた。
妖でありながら穢れを嫌う唯一の清廉潔白な存在。五行においては火神とされ、炎を宿した翼を持つ蛇の妖とされる十二神使────騰蛇。
「眞奉……ッ!」
僅かに振り向いた眞奉の頬に鱗のような模様がある。その背中には着物を突き破った翼が炎を纏って存在していた。
以前審神者について調べた時に十二神使の妖としての姿を絵で見た事があった。けれど眞奉はいつも私の前に現れる時は人型で、本来の姿に近い状態の眞奉を見るのは初めてだった。



