藍色の和服を来た女性が、その赤い瞳を細めてじっとこちらを見ている。腰の長さまである黄色みがかった髪に、真っ赤な口紅が引かれた唇。

気配はなかった。誰もいないことは十分なくらいに確認したはずだった。こんなにも至近距離で背後を取られるなんて。

ばくばくと跳ねる心臓を白衣の上から抑えてその女の人を見た。

見覚えがある。つい最近もどこかであったか、この人の顔を思い出したような気がする。


「いややわ、うちの事忘れてしもたん?」


耳に残る独特な京都訛り。鮮血を彷彿させる赤の、獲物を狙うような鋭い眼光。

そうだ、この人は。


「あなたは、まなびの社で会った……」

「ああ良かった。こんな短期間やのに忘れられたら悲しいもん。うち、巫寿ちゃんとは仲良うしたいと思うとるし」


間違いない。一年の三学期、神社実習の最終日にまなびの社で出会った彼女だ。

恵衣くんと社頭を歩いている時に声がして、鳥居の外に彼女がいた。手を貸してほしいと頼まれてそれで。

ハッと息を飲む。

そうだ、彼女の正体は。


「あん時は挨拶もせんと堪忍なぁ。すぐに殺すし名乗る必要もないかと思ってんけど、あの子(・・・)がしくじりよるから」


赤い唇をにぃっと弧を描いた。



「妖狐のあやかし信田妻(しのだづま)族の伊也(いなり)て言います。ま、今は落ちて野狐(やこ)やけど」