「巫寿は社に戻って神職たちに伝えてくれ!」
胃からせり上がってくる不快感を飲み込みながら片手で制した。
「社務所には人形を送ったから、私も一緒に行く……! もし本当に火事なら、人手が必要だよねッ」
火事じゃなくても何かトラブルが起きているなら人手は多いに越したことはない。
とはいえ形代操術は未だに慣れず、人型の形代を走らせると感覚が共鳴してやはり気分が悪くなる。
スマホがあれば一発なのに、あいにく社務所に置いてきてしまった。
目が回る感覚を吹き飛ばそうと軽く首を振った。
何か言いたげな鬼市くんと目が合った。
「……無茶だけはしないでくれ」
うん、と大きく頷き足を早めた。
近付くにつれ煙の匂いが濃くなった。木が燃えて灰になる匂いだ。黒く濁った煙が徐々に視界を曇らせていく。
私たちは体勢を低くして手ぬぐいで顔を覆った。
「誰にもすれ違わなかったね」
「恐らくみんな新嘗祭に参加してるからだろう」
「不幸中の幸い、だね」
そんな話をしながら先を急いでいると、木が燃える匂いが一気に濃くなり、肌に伝わってくる熱の勢いが増した。煙の隙間から赤い火の粉が見えて目を見開いた。
里の隅にある棚田を管理しているので、山に近く集落からは離れたこの場所に住んでいるのだと前に教えてもらった。何度か療養所を訪れている際に知り合って、一度家に招いてもらったこともあった。
彼らの家が、燃えている。



