そう唆したのが、芽さんなの?
方賢さんの劣等感を利用して言葉巧みに操って、彼が築いてきたものもこれまでの努力もすべて水の泡にした大元が芽さんなの?
禄輪さんが深い息を吐いた。他の神職さま達も深く考え込んでいるような唸り声をあげる。
皆が黙り込み重い空気が流れ始める。「おい待て」と禄輪さんが何かに気付いたような焦りをにじませた声でその沈黙を破った。
「方賢と芽が繋がっていたとして、なぜ芽は二学期の奉納祭に現れることができたんだ。まねきの社の鳥居は13年前に芽が離反してから芽を通さないようになったはずだ。誰かが招きいれたにしても、芽と繋がっている方賢はその時瞬き一つ自分ではできない状態だった」
神修に来たばかりのころ、クラスメイトに教えてもらった結界の仕組みを思い出した。
社の鳥居は社や神職たちを守るために、悪しきを通さない。社を害し神職に仇なすものは結界によって鎮守の森にとばされ彷徨う事になる。
ただ、それを逃れる方法が一つだけある。社の中にいる神職に「招かれる」ことだ。神職に招かれた人や妖は無条件で全ての鳥居を安全に通り抜けることができる。
さっきよりも鼓動がうるさい。背筋を嫌な汗が伝う。
「ここまで色々起きてるんだよ、あの鉄壁の結界が守る神修の中で。そりゃもう疑うしかないでしょ────裏切り者」