「冗談だ」

「冗談に聞こえる冗談を言ってよ……」


びっくりした、と息を吐きながら手すりにもたれかかった。

そろそろ戻るか、と麓の里に目を向けた鬼市くん。釣られるように視線を向けて「だね」と相槌を打つ。

里の方から白い煙がのぼっていた。


「あ、焼き芋大会始まったみたいだよ」


たしかお供えされたさつまいもを使って芋を焼いて皆で食べるイベントがあったはずだ。私は焼き芋が大好きなのでかなり楽しみにしていた。

その時、突然鬼市くんが展望台から身を乗り出した。


「き、鬼市くん! 危ないよ!」


慌てて背中を掴む。鬼市くんは眉根を寄せて煙の登る方角をじっと見つめた。


「変だ」

「え?」

「焼き芋大会は明け方に開催する予定だってお頭は言ってた」


神事が始まったのは夕暮れ時の少し前、もう少しで太陽は山の向こうに沈んでいく。明け方まではまだまだ時間があった。


「早めに始まったとしても、社頭でやる予定なのに、煙がのぼってるのは里の外れの方角だ」


たしかに鬼三郎さんに言われて集めた焼き芋用の落ち葉は社頭の一角で山にした。つまりあの白い煙は焼き芋の煙ではない。

だったらどうして。


ハッと私と鬼市くんが顔を見合わせる。


「火事ッ……!」


次の瞬間、私たちは一斉に駆け出した。