鬼市くんの気持ちに真っ直ぐ向き合うと決めたはずなのに、視線はつま先の上に落ちた。

最後までちゃんと答えようって心に決めたはずなのに。


「……そうか」


いつもと変わらない声。だけど少し小さい。


「巫寿」


名前を呼ばれて恐る恐る顔を上げた。

視線が絡む。目を弓なりにした表情は鬼市くんの最大の笑みだ。


「答えてくれて、ありがとう」


鬼市くんの瞳が僅かに光る。

その瞬間、記憶の隅に眠っていた幼い少年の泣き顔が重なった気がした。

気持ちに応えられなくてごめんなさい、そう謝るのは違う気がして小さく首を振った。


「もう休憩時間終わるよな。巫寿は先に戻ってくれ」


先に?と眉根を寄せる。

もしかして私が振ったことで気まずくなったんだろうか。


「ああ。気まずいとかじゃない。振られたからってこれからも友達であることに変わりはないし、巫寿が困ってる時は真っ先に助ける」

「えっと、じゃあなんで……?」

「俺が振られたことによって何もしてないくせに優位に立ったあいつがムカつくから、ちょっと嫌がらせの呪いをかけようと思って」

「の、呪い!?」


思わぬ回答に目を剥いた。

呪いをかけるだなんて物騒な……! というか、優位に立ったあいつって一体誰のことを言ってるの?

とにかく呪いはダメ、必死にそう止めると鬼市くんは可笑しそうに喉の奥をくつくつと鳴らして笑う。