深く息を吸って鬼市くんとしっかり目を合わせる。

出会った日からこれまでの事を思い出した。


正確には二度目だけれど初めて会ったのは、一年生の三学期に行われたまなびの社での神社実習だった。

表情があまり変わらず冷静沈着な印象が強かったけれど、突然冗談や突拍子のないことを言ったりよく見ると表情が豊かだったり、とても個性豊かな人だった。

まなびの社の節分祭で好意があることを遠回しに伝えられ、恥ずかしさや嬉しさもあったけれど、いちばん大きかったのは「何で私?」という気持ちだった。

次に再会したのは二年生に進級してすぐに行われた異文化理解学習。鞍馬の神修のみんなが私たちの神修へ来た時だ。

その頃私は前例のない飛び級合格で、他の学生たちから冷たい視線を向けられていた。鬼市くんはその事を知ってもなお、変わらない態度で接してくれた。私の陰口を聞いた時には私の代わりに怒ってくれた。

真っ先に「大丈夫か」と心配して、手をさし伸ばしてくれた。それに何度救われたことか。

優しくて頼もしくて、本当に魅力的な男の子なのだと思う。


「私も……鬼市くんが好きだよ」


鬼市くんは、本当に、本当に素敵な人だ。でも。


「でもその気持ちは、嘉正くんや慶賀くんに向ける友達としての"好き"と同じなんだと思う」


声が震える。

渡された気持ちを断ることが、こんなにも辛くて苦しいものなのだと今日初めて理解した。