「それでね、ミコトね、わかったの」
ミコトはきょろきょろと当たりを見回して誰もいないことを確認すると口元にその小さな手を当てて顔を寄せた。
「なきむしが、いちばんつよいんだよ」
サァッと通り抜けたつむじ風が、身体にまとわりつく蒸し暑さと心を重くする何かを一気に吹き飛ばされた気がした。
この日もらったこの言葉を一生忘れないような気がした。
「でもねママがね、そのあとに言うの。"ないてもいいけど、ぬぐいなさい。なみだでまえをくもらせちゃだめよ"って」
おそらく母親の真似をしているのだろう。人差し指をピンと立てて腰に手を当てたミコトは小さな鼻をツンと高くする。
それがおかしくてぷっと吹き出した。
涙はもう止まっている。目尻に残った雫を袖でごしごしと擦ればもう前は曇っていない。
「もう、へーき?」
頬を赤くしたミコトが笑って首を傾げる。俺がひとつ頷くと眩しそうに目を細めた。
「そういえば、ミコトはここでなにしてたの」
「あ、そうだ! おにいちゃん! みことおにいちゃんさがしてるの」
「どこからきたの。ひとりでここまできたの?」
ほえ、と気の抜けた声を出したミコトは不思議そうに当たりを見回した。そして俺の顔を見つめながら何度か瞬きをする。するとどんどん顔を歪めていき大きな涙がポロポロと頬を流れた。



